ハワイ不動産購入ガイド Vol.5

契約書の内容を細かくみてきたシリーズは今回が最後になります。今回は、売買契約書の各条項に紐付いている非常に重要な解約条項について、また、ハワイ不動産特有の税法についても見ていきます。売買契約書の11ページから最終14ページまでを見ていきます。

契約を解除できる権利と損害賠償

ハワイの売買契約書上、売主・買主双方に様々な契約上の義務があります。11ページから12ページかけて記載されているO-1~O-3の条項は、その義務を怠った場合にどうなるかが記載されています。順番が前後しますが、O-2から説明していきます。

ハワイ不動産売買契約書の11ページ

O-2:未確定条件期間内の解約 (Termination Within Contingency Time Period)

O-2は定められた期限内に買主側(または売主側)に与えられた承認プロセスに関しての解約条項になります。

例えば、E-4の家具・備品リストに対する承認、G-2にある権利関係をまとめたレポートの内容に対する承認、I-1で売主より提供される開示情報に対する承認、またJ-1で行なった室内点検に対する承認等、購入までに物件に関しての調査を行い、その内容を承認するプロセスが多く含まれています。その各条項において、O-2が紐付けられている条項が多く、承認できないものについてはO-2に則って解約をすることが可能になっています。

内容としては、基本的に買主側に与えられる契約解除の権利がこのO-2です。

ただし、それぞれの承認項目には期日が設定されているので、解約をする場合には、その期日内に、相手方に対して書面による通知を行う必要があります。

O-3:未確定条件/条件の特定期間経過後の解約(Termination After a Specified Contingency/Condition Time Period)

O-3は、契約書上で定められた期日までに義務を履行できなかった場合に、履行できなかった相手方に対して解約を通知することができる条項になります。

例えば、E-4に規定されている家具・備品リストを売主が期日までに提出しない場合、買主に解約権が発生します。また、H-1で定める資産証明を買主が提供できなかった場合には売主に解約権が発生することになります。

このO-3の条項を適用する為には、各条項で設定されている期日を徒過してから7日以内(他の期日を設定することも可)に相手方に対して書面による通知を行う必要があります。

O-1:契約不履行による解約(Termination Due to Default)

O-1は、上記のO-2またはO-3のいずれにも該当しない場合で、売主・買主のいずれかが契約不履行となった時に適応される条項です。例えば、不動産の売買代金の支払いやそのタイミングに関するC-2の条項に不履行があった場合、またはF-2にあるように、予め合意した引渡日を無断で超過してしまった場合に適用されます。その場合、重大な不履行とみなされ、不履行の相手方に対して損害賠償請求も可能になります。

買主に契約不履行があった場合、売主には契約を解約したうえで、損害賠償請求またはそれまでに支払われた手付金を没収することができます。

逆に売主に契約不履行があった場合、買主には契約を解約し損害賠償請求をするか、契約を強制履行させる権利が生じます。

ハワイ不動産売買契約書の12ページ

売主が非居住者の場合の買主の義務とは?

P-1:ハワイ州非居住者への源泉税 HARPTA(Hawaii Real Property Tax Act)

P-1は、「売主」がハワイ州以外の居住者の場合、不動産の売買価格に対して一定割合の源泉徴収を行うというハワイ州法に基づいて記載されています。2020年3月現在、不動産価格に対して7.25%の源泉徴収を行うことになっており、その源泉をする義務は「買主」にあります。実務上は、取引の間に入るエスクローが代行徴収ならびに代行納税を行います。なお、売主が日本の法人名義で、その法人がハワイ州の商業消費者省(DCCA)に登録されていればハワイ州税は免除申請することができます。

 

P-2:外国人不動産投資税法 FIRPTA(Foreign Investment in Real Property Tax Act)

P-2は、上記P-1がハワイ州の州法だったのに対して、アメリカの連邦税になります。HARPTA同様に、不動産売買価格に対して一定割合の源泉徴収を行うことになります。2020年3月現在、FIRPTAは不動産価格に対して15%となります。

オファーとカウンター・オファー

特別条項(SPECIAL TERMS)

レジデンス物件の売買契約書の雛形(Standard Form)はこれまで見てきたように、情報は多岐にわたっていますが、この契約書も起こりうる問題を100%カバーできているわけではありません。そのために、該当する条項がない場合に自由にリクエストや条件を記載できる箇所があります。それが特別状況になります。

Section R:仲介業者のサービスと責任(Brokerage Firms Services and Disclaimers)

ハワイ不動産売買契約書の13ページ

この条項では、仲介業者が提供するサービスの範囲と、その責任範囲について記載されています。これは不動産売買契約を行う上で、売主・買主双方が理解をしておかなければならない点、ということを意味しています。不動産の仲介業者は、あくまでも売買時のエージェントです。売買に関する税務・法務・鑑定・インスペクション等、売買時には様々な専門的知識が必要になってきますが、その内容に少しでも疑問や不安があれば、しっかりと各専門家に問い合わせをする必要があります。

また、エージェントは物件購入後の利回りを保証することはできませんし、将来売却時の価格を保証することもできません。逆に言うと、そのような話をしてくるエージェントには注意が必要です。

『海外不動産投資は危険??』でも触れた「MLS」に、当該不動産取引の内容を登録することを売主・買主双方が承認する、という条項もここに含まれます。不動産協会のStandard Form上にこの文言が記載されているので、新築以外のほぼ全ての不動産取引の詳細はMLS上にしっかりとデータとして蓄積されていくのです。それが、米国の不動産取引の透明性を高めている大きな要因の1つです。

サイン箇所

14ページの真ん中あたりに、買主がサインをする欄がでてきます。ここまで、買主として希望する購入条件を売買契約書に全て記載してきましたので、ここで「買主はこの購入契約書に提示した価格と諸条件で物件を購入することに同意し、購入契約の写しを受領したことを確認する」と理解した上で、サインをします。

ハワイ不動産売買契約書の14ページ

ちなみに、米国の不動産取引ではオンライン署名が既に浸透しているため、この売買契約書へのサインも、直筆でサインすることはほぼなくなりました。基本的には担当のエージェントからDocusignを代表する電子署名システムを経由して電子メールが送信され、オンライン上でクリックしていくことでサインをしたことと同じ法的効果が得られるようになっています。

Section T:アクセプト又はカウンター・オファー(Acceptance or Counter Offer)

オファーとは、これまで説明をしてきた内容にて買主が署名した売買契約書を売主へ提出する行為になります。この条項では、その売買契約書を受け取った売主が、その条件をアクセプト(承諾)するか、カウンター・オファー(対案提示)をするかを選択します。

アクセプトの場合はT-1を選択し、売主としてのサインを入れることにより、売買契約が成立となります。カウンターの場合は、T-2を選択し、売主側が作成するカウンターオファーの書類を添付して買主側へ提出することになります。

例えば、100万ドルでマーケットに出していた物件に対して、買主が95万ドルでオファーを入れてきた際に、「97万5000ドルでどうですか?」と売主側から再交渉を行うような場合です。カウンターオファーを提出する際には、このオリジナルの売買契約書には売主としてサインをします。サイン済の売買契約書と、新たに売主が作成したカウンターオファーの書類がセットになって買主に戻ってくる、ということになります。買主がそのカウンターオファーの内容に合意すれば、カウンターオファーへサインをして、それをもって売買契約成立となります。

日本とは契約書の書式・内容、進め方も異なりますが、ハワイの住居用の不動産取引のほとんどはこのフォーマットに従って進んでいきます。