ハワイ不動産を売却する際に必ず直面しなくてはならない税金のお話。前回から引き続き、日本とハワイの税務両方に詳しい、税理士法人アーク&パートナーズ代表税理士の内藤克先生に税務について伺いました。
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所有期間の経費をしっかり管理しましょう
田村:実際に物件を売却したら、譲渡益を算出しなくてはならないと思いますが、その際どこまでを経費として扱えるのでしょうか?
内藤先生(以下、内藤):譲渡益を算出するには、譲渡する際にかかった譲渡費用を経費として計上します。例えば、売却にあたって支払う仲介手数料や、エスクロー費用などはイメージしやすいと思いますが、所有期間中に物件の修繕や手直しをした費用も計上することができます。これは譲渡経費というよりは、取得費の一部として扱います。つまり、譲渡益を算出するには、物件の売却代金から、取得時の物件代金、取得経費、そして譲渡経費を差し引いて譲渡益を求めます。もちろん減価償却もあるので、単純に差し引きすれば良いというわけではないのですが。
田村:例えば、保有している間にエアコンを直したり、トイレを改装したりという費用は取得費として経費計上できるということでしょうか?
内藤:そういうことになります。その方が仮に賃貸に出していたとするならば、その都度経費として計上していたかもしれません。その場合は最後にもう一度経費にすることはできません。しかし別荘として持たれていて、都度経費で落としていない場合は、これまでに手直しをしたものに関して売却時に取得費として経費計上することができます。何も売った時に支出したものだけとは限らないということです。
そのため、所有期間中支払った金額やエビデンスはきちんと管理しておかないといけませんね。また多くはハワイにてドルで支払った費用になると思いますが、その時点での為替レートで日本円に直して経費計上する必要があります。その観点からも、きちんとした管理会社を選ぶということは重要となります。売ってから書類がほとんど残っていなかった、ということになっては困ってしまいますからね。
知らないとダブルパンチも?
内藤:取得する時の相談としてよくあるのですが、アメリカには相続時に複雑な検認裁判(プロベート)という制度があります。費用も時間もかかるため、このプロベートを避ける目的で、夫婦やお子様を名義に加えてジョイント・テナンシー(合有名義)という形態で物件を所有しているケースがあります。合有者の誰かが亡くなった場合は、他の合有者に自動的に所有権が移るというもので、これによりプロベートは避けることが可能になるわけですね。
田村:確かに、相続を考えると合有名義がいいというのは聞きます。
内藤:しかし、これには落とし穴があります。プロベートを避けるという目的では合有名義は良いかもしれません。しかし例えば、物件購入資金は全てAさんが出していて、Aさんの奥様が合有名義に加わっている場合、これはAさんから奥様へ物件の50%を贈与したと見なされてしまいます。
田村:これから取得される方は、プロベートを避けるため合有名義にする場合は、物件の資金もそれぞれが拠出する必要があるということですね?
内藤:そうですね。これから取得される方は十分対策が考えられるわけですが、もう何十年も前に合有名義で購入されている場合で、仮に購入時の贈与税の問題は時効になったとしても、売却の時には名義人ごとの申告が必要なってきてしまいます。つまり合有名義の場合は、購入時も名義人がそれぞれ物件資金を拠出し、売却時の収入もそれぞれが受け取るというのが原則なんです。他人の名義の物を売却して得た収益が自分の銀行口座に入ってくれば、それは「譲渡後に贈与された資金」となるのです。この場合、譲渡所得税もかかり、さらに贈与税もかかるという最悪のパターンにもなりかねないのですね。
田村:それは悲惨ですねぇ。相続時のプロベートを避けるという目的はわかりますが、購入時そして売却時の税金のこともしっかり考えてから名義を選ばないとダメですね。
相続を考えたら売却が得策
田村:ところで、ハワイ不動産は相続税対策としては有効なのでしょうか?
内藤:日本では、相続税対策として不動産を買うということはよくあります。これは不動産の実勢価格と相続税の評価額に乖離があるので節税が可能になるわけです。しかし、ハワイの不動産には相続税評価額というものがありません。相続の対象物件の市場価格で税金計算をするわけです。つまり、価格に評価差が出ないため、相続税対策にはならないわけです。
田村:相続税対策は、ハワイ不動産には求めてはいけないポイントですね。
内藤:そうですね。ご自身で十分楽しんだら、相続せずに早めに売却していくのが得策だと思います。
今回も、いろんな盲点を教えてもらいました。ありがとうございました。
内藤 克 Katsumi Naito
ハワイ相続プロジェクト 代表 税理法人
アーク&パートナーズ 代表税理士
日本とハワイにまたがる税務法務をワンストップで解決。近年税務当局は海外投資に対して厳しい税制改正を繰り返しており、将来を見据えたアドバイスには定評がある。自身もハワイにコンドミニアムを購入し、ハワイライフを楽しんでいるため幅広いアドバイスが期待できる。日本の税理士・弁護士とハワイの会計士・弁護士が「日本とハワイのクロスオーバー相続」についてコンサルティングを行うプロジェクト「ハワイ相続プロジェクト」を立ち上げ、代表を務める。