突然ですが、ハワイの「空き家税」という言葉を耳にされたことはございますか?ここ数年、法廷で繰り返し審議されてきた法案ですのでご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、これはハワイ州の新しい法案 (Empty Homes Tax – Bill 46) を直訳した言葉です。
この法案は、一定期間にわたり不動産を空き家にしている所有者に対して、不動産評価額の3%を課税するもので、現在深刻な問題になっているオアフ島の住宅不足やホームレス問題を解決する目的で提案されたものです。つまり、ハワイ不動産を所有されている方には非常に関係の深いものになります。
2024年12月、この法案は正式に延期となりましたが、住宅不足が悪化しているハワイでは今後も避けられない表題になることは間違いありません。本記事では、Bill46の概要と今後の行方について解説していきます。
そもそもBill46とは?
Bill46はオアフ島における住宅不足問題に対応するため、空き家に対する課税を導入する法案で、ホノルル市議会のトミー・ウォーターズ議長とラディアント・コルデロ議員によって2024年8月に提案されました。余談ですが、このお二人は昨年10月にホノルルの姉妹都市として認定されている神奈川県茅ヶ崎市にも訪問されおり、友好協定締結10周年をお祝いされていました。
この法案が通過すると、空き家と認定された年から固定資産税に課税評価額の1%(初年度)2%(2年目)3%(3年目以降)が毎年追加課税されるというものです。徴収した税は低価格の住宅建設や、ホームレス問題など住宅関連の問題解決に利用される目的です。
実はこの空き家税はすでにカナダ、バンクーバーで導入されており、市内で有効的な結果を残してきていることがハワイのBill46を争う法定証言の際にも使われていました。以下の文章はホノルル市により実際に記録されている証言内容です。
出典: https://hnldoc.ehawaii.gov/hnldoc/document-download?id=22053
重要なポイントは、
(1) 空き家税導入後、バンクーバーの空き家件数は54%削減された
(2) 1億4000万ドル以上の空き家税収を住宅施策に充てることに成功
この結果だけを見ると、Bill46がローカルから熱く支持を受ける理由がお分かりいただけるかもしれません。しかし、これまでのオアフ島の不動産市場の発展に貢献されてきているのは、他でもない、日本人をはじめとする外国人投資家の皆様です。この手の平を返すような法案は身勝手であり、現時点で反対派が法案を延期に見送ったことも当然の結果と捉えて良いのかもしれません。
空き家の定義
Bill46の背景を解説させていただいたところで、皆様が最も疑問に思われているのは「空き家」の定義ではないかと思います。実はこの定義が絶妙に曖昧であり、混乱を招いたことも法案を延期に見送った要因となりました。
ホノルル市が公表した文書に記載されている空き家の定義は、以下のように始まります。
any property improved with a dwelling unit, condominium unit, apartment building, or duplex unit used for residential use, except the following…
この英文から、例外を除く住居用全ての物件が該当するということが読み取れます。この例外が何かを見ていく必要がありそうですね。今回は論点にもなっている重要ポイントを要約させていただきますが、全文をご覧になりたい方はこちらから確認いただけます。
全文: https://hnldoc.ehawaii.gov/hnldoc/document-download?id=23221
免除条件には以下が含まれます:
所有者がその物件に居住している、または賃貸している場合 |
物件の権利に関する訴訟が進行中の場合 |
所有者が亡くなった場合(ただし、この免除は死亡した年とその後5課税年度までに限られる) |
所有者が医療を受けている、または介護者として医療提供を行っており、そのために6か月以上物件を離れる必要がある場合 |
所有者がアメリカ軍の一員として市外に派遣されている場合 |
所有者が物件の売却または賃貸を「積極的に努力」している場合(ただし、売却免除は5年間のうち1年間のみ適用可能) |
改修工事が進行中であり、所有者が他の場所に居住する必要がある場合 |
上記をご覧いただいて様々な疑問が浮かんでくるかと思うのですが、それは法廷で実際に争議された方達にとっても同じでした。
例えば、賃貸している場合は免除とありますが、これはopen-ended rental agreement (解約時期を定めない無期限の賃貸契約書)を提出すれば認められるのでしょうか。物件の売却または賃貸を「積極的に努力」している場合も免除対象になるとありますが、詳細に記されている内容も、「物件を広告している場合や複数のサイトを使い物件を掲載している場合等」と非常に曖昧な表記になっているのが現状です。
それ以前に、誰がどのようにして、ホノルル市内全物件の改修工事内容や家庭内の介護事情までを調査し把握するのかということも法廷では論議されていました。
これは正直、かなり非現実的な「空き家」とそうでない物件の識別の仕方になっていますね。この準備不足で不透明な法案が見送りを招く結果となりました。
可決された場合、どのような影響が発生する?
Bill46の導入は当面の間お見送りになりましたが、仮に可決されてしまった場合、オーナーの皆様に課税の他にどのような影響を及ぼす可能性があるのか、万が一に備えて確認していきたいと思います。
1. 免除申請の負担
今回提出されたような法案が適用された場合、毎年全ての物件に対して、自宅が所有者居住用である、長期賃貸に使用されている、または法案の免除条件のいずれかに該当することを宣言し、証明する書類を提出する必要があります。
今回の原文では、居住状況の変更を年に1回しか許可していないため、締め切りを逃したり、年の途中で免除条件を満たしていたとしても、翌年の申請期限まで追加課税が課されることになります。忙しい毎日をお過ごしの皆様にとって、これ以上不動産所有関係の書類準備が増えてしまうのは、なんとしてでも避けたいところかと思います。
2. 売却や賃貸にかかる圧力
法案が可決された場合、大半の日本人オーナー様は、所有されている物件を賃貸に出す、売却する、または使用用途は変えずに課税を納めるという3択の間で決断を下されることになるかと思います。
この場合、長期投資目的で購入された物件などの中には、不利な条件で売却せざるを得なくなったり、賃貸運営を始める必要があるものも出てくる可能性があります。また複数の物件をお持ちの皆様はそれぞれの物件について最善策を考える必要があります。
3. 税制改正による不動産市場の揺れ
多数の物件が一斉に売却されたり、賃貸に出回ることで、ここまで安定した伸びをみせているハワイの不動産市場に不確かな揺れが発生してしまう可能性があることも懸念されます。
またこの税制は、住宅所有者に対して空き家を賃貸、売却、または自ら居住するよう促し、住民のための住宅供給を迅速に増やすことを目的としていますが、第一に新たな購入者やテナントが地元住民であるという保証はありません。
気になる今後の行方
この不透明な法案を強行採決しようとしていたホノルル市でしたが、ホノルル不動産業者協会(HBR)のCEOスザンヌ・ヤング氏を始めとする反対派の努力もあって、2024年12月11日にBill46は正式に延期となりました。しかし、現時点では延期という形で、新たな日程調整は今後行われるとHonolulu City Council Records Collectionに掲載がありますので、念の為、引き続き今年も様子を見守っていく必要がありそうです。
法廷でのこれまでの流れ
8/1/2024 | Bill46法案提出 |
8/7/2024 | First Reading通過(賛成9票) |
10/9/2024 | CD1修正後、Second Reading通過 (賛成6票、反対3票) |
11/21/2024 | Third Readingを承認 (賛成3票、反対2票) |
12/11/2024 | 議長により延期 |
1/2/2025 | ホノルル市議会に新たにスコット・二シモト氏就任 |
実はこの法案に関する調査のために、ホノルル市は昨年8月に$498,891という多額のコンサルティング費用を支払い、アーンスト・アンド・ヤング社に調査依頼をしていました。この契約が2025年7月31日に終了する記載がありますので、その前後に何かしらの動きがあることは間違いなさそうです。
出典: Hawaii Legal Short Term Rental Alliance
以上、Bill46についてご説明させていただきましたが、現時点でこの支離滅裂な法案について心配する必要はまずなさそうです。とは言え、今後についてまだまだ不確定な要素がある現在、一番重要な点は、最新の情報収集とあらゆる可能性を想定した物件選びです。状況に応じた最善の物件選びや売却方法を是非お手伝いさせていただきますので、些細なことでもご質問等ございましたらお気軽にお問い合わせください。
今後も、Bill46についてはアップデートがあり次第随時こちらの記事を更新していきますので、本ページ上部右上より是非メルマガにご登録ください。また、「お問い合わせ」よりご連絡くださった方には都度直接ご案内させていただきます。
※情報には正確を期しておりますが、プロジェクト進行に伴い変更が発生する場合がございます。常に最新の情報をご確認いただくようお願いいたします。
※ハワイの不動産ライセンスを保持しているCrossover Realty Hawaii LLCの許可を得て、情報を掲載しています。