ハワイ州が宿泊税を引き上げー目的は気候変動対策?

先日、ハワイ州議会は、気候変動対策の財源確保を目的として、新たな観光関連課税制度の導入に踏み切る方針を明らかにしました。これにより、観光客を対象とした宿泊税が引き上げられ、現地では「Green Fee(グリーンフィー)」と呼ばれる新たな環境保護目的の使用料が、宿泊税に上乗せして課されることになります。

全米で初めて気候対策を目的として導入されるこの税制度は、自然豊かなハワイを守るための重要な財源として期待されています。一方で、すでに全米でもトップクラスの物価水準にあるハワイで、さらに旅行費用が増すことにより、観光客への負担が大きくなり、訪問者数の減少につながるのではないかという懸念の声も上がっています。

本記事では、グリーンフィー導入の背景とその詳細について解説します!

グリーンフィー法案とは?

「グリーンフィー(環境保護使用料)」法案とは、ハワイを訪れる観光客に対し、これまで10.25%だった宿泊税を11%に引き上げ、その差分である0.75%分の税収を、環境保全目的のプロジェクトに充てるという新たな制度です。これは、従来の観光税とは異なり、自然環境を守るための“責任ある観光”を促す仕組みとして導入が検討されています。

徴収された追加税収は、サンゴ礁の保護やビーチの浸食対策、森林の再生、外来種の駆除など、ハワイが直面している自然環境の危機に対応するためのプロジェクトに活用される予定です。これにより、美しい自然を守りながら観光業を持続可能な形で維持していくことを目指しています。

この新制度は、2026年1月1日より施行される予定で、ホテル宿泊客だけでなく、ハワイに寄港するクルーズ船の乗客も対象となります。クルーズの場合、滞在日数に応じて課税される仕組みが検討されており、観光スタイルを問わず、訪問者全体に環境保護の負担を広く分担してもらう狙いがあります。

ハワイ州の試算によれば、この新たな制度により、年間およそ1億ドル(日本円にして約140億円超)の税収が見込まれています。観光業が経済の柱であるハワイにとって、これだけの金額を安定的に確保できることは大きな意味を持ち、他州や他国からも注目される取り組みとなりそうです。

背景:ハワイを襲う気候変動の現実

では、なぜ今ハワイ州は新たな課税制度「グリーンフィー」の導入に踏み切る必要があるのでしょうか?その背景には、ハワイを直撃している気候変動の深刻な影響があります。ハワイ諸島は、その美しい自然環境と豊かな生態系から「太平洋の楽園」と称され、多くの観光客を魅了してきました。

しかし、近年その楽園の姿は、地球温暖化の影響によって急速に変わりつつあります。実際に、ハワイは世界でも気候変動の影響を強く受ける地域の一つとされており、海面の上昇、サンゴ礁の白化、降雨量の減少による干ばつ、さらには山火事の頻発など、かつては考えられなかった環境問題が現実のものとなっています。

とりわけ2023年にマウイ島のラハイナで発生した大規模火災は、世界中に大きな衝撃を与えました。この火災では100名以上が犠牲となり、1万人以上の島民が避難を余儀なくされました。歴史的な街並みと文化遺産も大きな損害を受け、地元経済や観光業への影響も深刻でした。

また、ハワイの海洋生態系を支えるサンゴ礁も、過去数十年で急速にダメージを受けています。温暖化により海水温が上昇することでサンゴの白化現象が進み、かつて色鮮やかだった海中の世界は一変しつつあります。これは単なる自然破壊にとどまらず、観光資源の損失や漁業への影響といった経済的損失にもつながっています。

ハワイ大学の研究によると、今後数十年のうちにハワイの海面は最大1メートル以上上昇する可能性があり、それにより沿岸部の観光施設や住宅が影響を受けるリスクが高まっているといいます。つまり、今何らかの手を打たなければ、ハワイの観光産業そのものが立ち行かなくなる可能性もあるのです。

こうした背景を受け、ハワイ州は「観光で得た利益を、自然を守るために還元する」ことを目的として、「グリーンフィー(環境保護使用料)」の導入を決定しました。

観光と環境保護のバランス

ご存じの通り、ハワイの経済は観光業に大きく依存しており、その割合は州全体のGDPの約20%ともいわれています。しかし、この過度な観光依存は、自然環境や住民の生活に大きな負担をかけてきています。 近年、オアフ島やマウイ島では、住宅価格の高騰、交通渋滞、水資源の枯渇、ゴミ処理の逼迫など、観光によって引き起こされた社会的・環境的な問題が顕在化しています。

観光客の増加が地域住民の生活に与える負荷は年々大きくなっており、「オーバーツーリズム(観光公害)」という言葉が地元で日常的に使われるようになっています。

そうした中で導入が決定された「グリーンフィー」は、単なる財源確保のための課税措置ではなく、「観光客にも環境保護の責任を共有してもらう」という新たな観光の在り方を示す試みです。

ハワイ州のグリーン経済担当官、ダーン・カラマ議員は、「ハワイの自然は私たちのアイデンティティの一部であり、それを守る責任はすべての訪問者と共有されるべき」と語り、地元の人々だけでなく、観光で恩恵を受けるすべての人が持続可能性への責任を持つべきであるという強いメッセージを発信しています。

日本国内でも、京都や鎌倉、北海道の一部地域などで観光客の集中による「オーバーツーリズム」が大きな課題となっています。美しい景観や地域文化が観光資源として消費される一方で、地元住民の暮らしや自然環境への影響も深刻化しているのが現状です。

そうした意味でも、ハワイ州が打ち出したグリーンフィーのような「訪問者にも責任を共有してもらう仕組み」は、日本でも今後検討されるべきアプローチのひとつではないでしょうか。ただ観光を受け入れるのではなく、「守りながら楽しむ」観光の形が、これからの時代に求められているのかもしれません。

懸念と課題は?

一方で、この新たな税制度に対しては、「観光客の負担が増えることで、訪問者数が減少し、経済への悪影響が出るのでは」と懸念する声もあります。特に中小規模のホテルやツアー業者からは、導入の時期や税率の妥当性についての議論も続いています。

また、実際に徴収された税金が透明かつ効果的に使われるかどうかという点も重要なポイントです。住民の信頼を得るためにも、しっかりとした監視体制と情報公開が求められます。

まとめ:未来への投資としての環境税

ハワイが直面する気候変動のリスクは、もはや「将来の懸念」ではなく、すでに現実として地域社会と自然環境に深刻な影響を及ぼしています。

今回導入が決まったグリーンフィーや宿泊税の引き上げは、こうした危機的状況に対して、観光によって得られる経済的恩恵の一部を、自然保護や復元のために還元する「未来への投資」として位置づけられています。ただの財政措置としてではなく、次の世代にも美しいハワイを残すための責任ある判断といえるでしょう。

世界中の人々から愛されるハワイという場所を、今後も長期的に守り続けていくためには、地元住民や行政だけでなく、その美しさを享受する観光客一人ひとりの協力も欠かせません。今回のグリーンフィーが、日本をはじめとする観光大国においてもひとつの参考例となり、持続可能な観光のあり方を考えるきっかけになることを願います。

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