Contents
2022年10月の電気料金が大幅上昇
不安定な世界情勢を受けて、日本を含む世界各国で見られる電気料金の高騰ですが、ハワイもその例に漏れません。特に9月・10月には大幅に値上がりした請求書を受け取った人々から、驚きの声が上がりました。ハワイの電力会社Hawaiian Electric(HECO)から、10月には4%程度の値上げが見込まれると事前の発表がありましたが、実際にはそれを大きく上回る値上げが多くの世帯で発生したようです。一般的な世帯でも$50以上の値上がりを報告する声も多数ありました。ハワイ不動産をご所有のオーナーさんは、すでに実際の請求書をご覧になったかもしれません。本記事ではオアフ島での電気料金値上がりの背景をご紹介します。
値上げの要因はこの3つ!
石炭火力発電所の閉鎖
2022年9月1日にオアフ島最後の石炭火力発電所が閉鎖され、これが電気料金上昇の大きな要因となりました。皆さんご存知の通り、ハワイ州は環境保全と持続可能な社会への取り組みに非常に熱心です。この取り組みの一環として再生可能エネルギーへの転換を進めており、石炭火力発電所の閉鎖はその過程において重要なマイルストーンの1つでした。
閉鎖されたのはAESによって運営されていたAESハワイ発電所です。1992年からオアフ島の電力の約1/5を賄ってきました。この大規模な発電所閉鎖による電力不足を補うために、閉鎖前にクリーンエネルギーの発電所を複数稼働開始するはずでしたが、パンデミック等の影響によって開発業者が撤退するなどのトラブルがあり、結果的に2箇所の計画が頓挫。AESハワイ発電所の閉鎖に前後して1箇所が稼働を開始しましたが、残る8箇所は2023年内に稼働開始の予定となっています。
代替施設の用意が整わないままAESハワイ発電所の閉鎖に踏み切ったことについて、一部では不満の声もあるようです。しかしながら、2020年に制定した条例では2023年までに石炭による発電をゼロにするという内容が含まれており、AESとHECOの30年契約が切れる今年9月での閉鎖となりました。
ハワイ州は2045年までに使用電力の100%を再生可能エネルギーに切り替えることを目標としており、今後は太陽光や風を資源とした環境負荷の少ない発電へシフトしていく予定です。ただ、環境が整うまで、現時点では石炭よりも環境負荷が少ない石油発電がオアフ島の主な電力供給源となっています。過渡期である現時点では、アメリカの全州の中でハワイ州は最も石油発電に依存した州となっています。石炭より環境負荷が少ないものの、石油は石炭よりも高価ですので、結果的に住民の電気料金の負担が大きくなっています。
世界情勢の影響
石炭発電所の弊社は6年前から時間をかけて計画されたもので、石炭からクリーンエナジーへの転換期に石油発電が占める割合が高くなることは事前に予定されたものでしたが、運悪く世界情勢の悪化がここに重なりました。パンデミックの影響に加え、ロシアによるウクライナ侵攻が電気料金に大きく影響しています。
ハワイ州はこれまでロシアから石油を輸入していましたが、2022年初旬にアメリカがロシアへの制裁として全州にロシアからの石油輸入を禁じたため、ハワイ州はより高いコストを支払って他の地域からの輸入に変更する必要に迫られました。実はこれに伴い、今年3月、HECOは既に10〜20%の電気料金の値上げを実施しています。今回はここに、前述の発電所閉鎖に伴う石油火力発電への切り替えとインフレが影響し、更なる値上げとなりました。
物流の遅延
これは電力業界に限らずどの業界にも言えることですが、パンデミック初期から物流に大きな遅延が発生しており、プロジェクトを計画的に進めることが難しい状況です。必要な資材の輸入に時間がかかるだけでなく、物流が滞ったことでパネル、バッテリー、インバーターなどの発電所建設に必要な資材・部品の価格が大幅に上昇しました。サプライチェーンの遅延による部品の値上がりだけでなく、世界中がクリーンエネルギーへの転換を図っている現在、再生可能エネルギー機器は需要が高く、今後数年間は価格は高止まりする見込みです。
また、ハワイ州での太陽光発電所の建設に関しては、物流の滞りは上記の世界情勢だけでなく、当局の許可や契約に起因するものもあるようです。ハワイ州のDepartment of Commerce(商務省)が実施するアンチ・ダンピング措置(※1)の調査によって、東南アジアからの太陽電池の輸入に遅れが出ているという指摘があります。
Hawaiian Electricのアナウンス
発電所の閉鎖に先立ち、今年8月にHawaiian Electricより、10月以降の電気料金が約7%(平均的な世帯でひと月あたり約$15)上昇するとアナウンスがありました。2022年3月にも10-20%の値上げがありましたが、今回の7%は3月の値上げに上乗せする形になるとのことでした。今年1月時点ではひと月ひと世帯あたり約$2の増加と見込んでいたようですが、その後のインフレと原油価格の変動により、実際に値上げが公表された8月には$15まで上がってしまったとのことでした。
このアナウンスの後原油価格が低下し、上げ幅の予想は7%から4%に修正されました。しかしながら、冒頭でご紹介した通り、一部ではこの予想を大きく終える値上げが発生しているようです。これについてHECOは、ハワイでは9月・10月が最も電力消費が多い月であるため、多くの住民がこれまでよりも電力を消費したようだ、とコメントし、電力消費を抑えるためにエアコンの使いすぎや2つ目の冷蔵庫の必要性を再考するなど、電力の使い方を見直すようアドバイスしました。
当然ながら利用者がこの回答で満足するわけもなく、一部では現在導入が進んでいる新しい検針器に何か原因があるのではないか、など疑念を示す利用者もいるようです。
ハワイの電気料金は全米1位!
ここまでお読みになった方は、電気料金の値上がりもその背景も日本およびその他の国々と変わらないのでは・・と感じられたのではないでしょうか。実際に、日本も世界も火力発電から再生可能エネルギーへの転換を図っており、関連する部品や機材が不足していること、ウクライナ侵攻による原油価格の高騰、パンデミックの影響による物流の滞りを同じように体験しています。ただ、ハワイが他の地域と異なるのは、元々の電気料金が非常に高いということです。
ハワイ州は全米で最も電気料金が高い州です。居住費、生活費、物価など全てが高いハワイにおいて電気料金が高いことは不思議ではありません。他の商品と同様に州内での生産量が少なく、州外からの輸入には輸送コストが発生し、それが電気料金に転嫁されています。以下は2022年6月の電気の価格、消費量、発電量の週別ランキングです。
※画像はクリックで拡大します。
電気の価格は2位のカリフォルニア州に大差をつけて1位であるにも関わらず、発電量は51州中47位、消費量に至っては全米最下位となっています。(発電量と消費量は画像の見やすさのために最下位から順に表示しています。)
ハワイ州の電気料金の高さはアメリカ国内だけではなく、世界的に比較しても高いと言えます。下の表は世界の国々を電気料金が高い順に並べたものです。上の3つのグラフは2022年6月、下の表は2022年10月の数字ですので、単純な比較はできませんが、ハワイ州の「44.81cents/kWh」は1位のデンマークの「39cents/kWh」を上回っていることが分かります。
今後も高いまま?
この1年間で大きく値上がりしたホノルルの電気料金ですが、今後はどうなるのでしょうか。確たる答えはありませんが、HECOによると、2023年には多くのクリーンエネルギー発電所が稼働を開始するため、供給量が増え、価格を下げることができると見込んでいるそうです。また、情勢が落ち着いて原油価格が下がればもちろん価格も下がると付け加えました。
現実的には、世界情勢がすぐに変化する可能性は低く、再生エネルギーへの転換は大きなトレンドですので、発電所建設に必要な機器は今後むしろ値上がりすると予想されています。残念ながら電気料金が以前の水準に戻る日は遠そうです。
ただ、希望の光があるとすれば、同じハワイ州内のカウアイ島ではすでに再生可能エネルギーへの転換をほぼ終えており、その結果電気料金は安定しているということです。カウアイ島では平均してエネルギー消費量の70%がクリーンエネルギーで賄われており、時間帯によってはその割合が100%に達することもあります。石油の使用量は非常に小さいため、電気料金が原油価格の影響を受けることはありません。オアフもこの状態に到達するために、過渡期である現在は忍耐の時期と言えそうです。
※1:アンチダンピング措置とは、輸出国の国内価格よりも低い価格による輸出(ダンピング輸出)が、輸入国の国内産業に被害を与えている場合に、その価格差を相殺する関税を賦課できる措置
グラフ1-3:U.S. Energy Information Administrationより引用
表1:Electric Rateより引用
参考:
HECO announces 7% increase in electricity prices on Oahu, second price hike in last 6 months(by KITV4)
Rising costs, construction woes hamper clean energy efforts in Hawaii(by Utility Dive)
Rising costs, construction woes hamper clean energy efforts in Hawaii(by Courthouse News Service)
What’s Up With These Skyrocketing Electric Bills?(by Honolulu Civil Beat)